イタリア・カンパーニャ州。ナポリの喧騒から東へ離れた、標高の高いイルピニアの地で、南イタリアワインのイメージを「安価で土着的」なものから「洗練されたエレガンス」へと一変させたワイナリーがフェウディ・ディ・サン・グレゴリオです。そのフラッグシップであるタウラージは、アリアーニコという気難しくも気高い土着品種を世界基準の銘醸酒へと押し上げた、まさに現代カンパーニャを象徴する傑作といえます。
① 歴史・背景(創業・蔵元・ブランドの歩み)
フェウディ・ディ・サン・グレゴリオの歴史は、1986年に始まりました。カパルド家とエルコリーノ家という二つの家族が、アヴェッリーリーノ近郊のソルボ・セルピコという村で立ち上げたこのプロジェクトは、当時衰退しつつあったカンパーニャ州の土着品種を再興させることを目的としていました。彼らは古代ローマ時代から続くアリアーニコやファランギーナ、フィアーノ、グレコといった品種に、最新の醸造技術と現代的なマーケティングを組み合わせることで、地域の潜在能力を覚醒させたのです。
転機となったのは、伝統に固執しすぎず、それでいて土地の個性を失わない「バランス」の確立にありました。かつてのタウラージは、荒々しいタンニンと酸を和らげるために長い歳月を必要とする野性的なワインでしたが、彼らは科学的なアプローチと緻密な畑の管理により、熟成初期からでもその偉大さを感じさせるクリーンなスタイルを確立しました。この功績はカンパーニャ・ルネサンスと呼ばれ、同州初の最高格付DOCGへの昇格(1993年)にも大きく貢献しました。
➁ ブランド・思想・位置づけ
ブランド名のフェウディ・ディ・サン・グレゴリオは、かつてこの地を治め、ワイン造りの文化を保護した教皇グレゴリオ1世(聖グレゴリオ)の領地に由来しています。彼らの思想の核にあるのは「伝統と革新の調和」です。ワイナリー自体が現代建築の粋を集めたアート作品のようであり、ラベルデザインは著名なグラフィックデザイナー、マッシモ・ヴィネッリ氏が手掛けています。
市場における立ち位置は、間違いなくカンパーニャ州のリーダーです。彼らは単なる生産者ではなく、土地の文化と芸術のアンバサダーとして、伝統的なタウラージに「モダン・エレガンス」という新たな価値を付与しました。南イタリアのバローロという別称が示す通り、北のバローロに匹敵する威厳と長期熟成能力を誇りつつ、火山性土壌由来のシャープなキレを持つこのワインは、イタリア全土でも唯一無二の地位を築いています。
③ 酒質・味わい・特徴
タウラージの主要品種であるアリアーニコは、皮が厚く、晩熟で、強靭な酸とタンニンを持つことで知られています。このワインをグラスに注ぐと、中心部まで濃い色調のガーネット色が、その凝縮感を物語ります。香りは極めて複雑かつ重層的です。完熟したブラックベリーやダークチェリーの力強い果実香に、甘草、シナモン、バニラといったスパイス、そしてこのワインを決定づける火山性土壌由来のタバコや煙、火打石のようなミネラル香が美しく重なります。
口に含めば、フルボディの圧倒的なボリューム感が押し寄せますが、それは決して鈍重ではありません。アリアーニコ特有の鋭い酸が全体を引き締め、緻密に構成されたタンニンがベルベットのように滑らかに広がります。余韻は驚くほど長く、黒系果実の凝縮感とスパイシーな苦みが交互に現れ、最後には清涼感のあるミネラル感が残ります。
④ 評価・支持される理由
このワインが世界中の愛好家から支持される理由は、その揺るぎない「品格」にあります。アリアーニコという野生味溢れる品種を、ここまで都会的で洗練された姿に磨き上げた技術への信頼は絶大です。また、10年、20年という長期熟成に耐えうるポテンシャルを持ちながら、抜栓してからの変化がダイナミックであることも、ワインを育てる楽しみを知るファンを惹きつけて離しません。
飲用シーンとしては、やはり重厚なメインディッシュが並ぶ晩餐がふさわしいでしょう。ペアリングにおいては、その強固なタンニンと酸が肉の脂を美しく分解してくれるため、牛肉の炭火焼きやラムラックのロースト、あるいはジビエ料理との相性は完璧です。カンパーニャの郷土料理である猪のラグーソースを使ったパスタや、長期熟成させたパルミジャーノ・レッジャーノなどのハードチーズとも、互いの個性を高め合います。
⑤ 総括
南イタリアの荒々しい大地のエネルギーを、最先端の知性と芸術性でエレガントな官能へと昇華させた、火山性テロワールの最高到達点といえる赤ワインです。

レビュー
0