イタリア・ヴェネト州の伝統的な赤ワイン、ヴァルポリチェッラ。その歴史において、一つの銘柄がカテゴリーそのものの価値を決定づけることがあります。ゼナートが手掛けるリパッサ・ヴァルポリチェッラ・リパッソ・スーペリオーレは、まさにその象徴です。アマローネの気品とヴァルポリチェッラの快活さを一つのボトルに封じ込めたこのワインは、リパッソという製法を世界的な成功へと導いた立役者として知られています。
① 歴史・背景(創業・蔵元・ブランドの歩み)
ゼナートの歩みは1960年、創業者セルジオ・ゼナート氏がガルダ湖東岸のペスキエーラ・デル・ガルダにワイナリーを設立したことから始まります。彼は当初、白ワインのルガーナに情熱を注いでいましたが、その関心はやがてヴァルポリチェッラ地区へと広がりました。セルジオ氏は土地の可能性を信じ、埋もれていた伝統的な醸造手法に光を当てました。
大きな転機は1990年代、独自の解釈を加えたリパッソ・ワインであるリパッサを市場に発表したことです。当時、リパッソという手法はまだ一般的ではありませんでしたが、リパッサの圧倒的な品質は世界中の評論家を驚かせました。この成功が、後の2010年にリパッソが独自のDOC(原産地呼称保護)として認められる大きな原動力となった事実は、歴史的に見ても特筆すべき功績です。現在はセルジオ氏の遺志を継ぐ子供たちのアルベルト氏とナディア氏の手によって、その品質はさらなる高みへと磨き上げられています。
➁ ブランド・思想・位置づけ
ゼナートの根底にあるのは、土地が持つキャラクターを最大限に引き出すという揺るぎない思想です。彼らのロゴに描かれた三つの環は、家族、ワイン、そして土地の結びつきを象徴しています。ゼナートは伝統を守りつつも、常に最新の技術を導入し、クリーンで洗練されたスタイルを追求してきました。
市場におけるリパッサの立ち位置は、まさにベビー・アマローネと呼ぶにふさわしいものです。高価で重厚なアマローネと、軽快なヴァルポリチェッラの中間に位置し、両者の長所を見事に融合させています。単なる二番手ではなく、リパッソというジャンルにおいて基準となるベンチマークとしての地位を確立しており、革新的な精神を持ちながらも地域性を色濃く反映したプレミアムな一本として評価されています。
③ 酒質・味わい・特徴
リパッサは、一度完成したヴァルポリチェッラのワインを、アマローネに使用したブドウの搾りかすと共に再び発酵させるリパッソ製法で造られます。この工程により、ワインには驚くべき深みと複雑さが加わります。グラスの中で揺れる液体は、深みのある濃いルビー色を呈し、熟成の進展を感じさせる落ち着きがあります。
香りは非常に豊かで、完熟したダークチェリーやプラムの黒系果実をベースに、リパッソ由来の乾燥したバラ、ブラックペッパー、そして微かなダークチョコレートやタバコのニュアンスが重層的に立ち上がります。口に含めば、フルボディの力強いストラクチャーが広がりますが、決して重苦しくはありません。コルヴィーナ種がもたらす生き生きとした酸が骨格を支え、きめ細かく溶け込んだタンニンがシルクのように滑らかな舌触りを演出します。余韻には、凝縮された果実の甘みと、スパイシーなキレが心地よく持続します。
④ 評価・支持される理由
ゼナートのリパッサが多くのファンから支持される最大の理由は、価格を大きく超える満足感にあります。アマローネの魅力を手の届きやすい形で提供しながら、決して安価な代替品ではない、独自の完成度を誇っているからです。ワインに詳しい愛好家からはその緻密な構造が高く評価され、ビギナーからはその分かりやすい果実味と飲み心地の良さが愛されています。
向いている人は、しっかりとコクがありながらも、最後の一口まで飽きずに楽しめるバランスを求める方です。飲用シーンとしては、少し贅沢な週末のディナーや、親しい友人との語らいの場にふさわしいでしょう。ペアリングにおいては、その豊かな果実味とタンニンが肉の旨味を強調します。牛肉の赤ワイン煮込みやラムラックのローストはもちろん、キノコをたっぷり使ったリゾット、あるいは少しクセのあるハードタイプの熟成チーズとも素晴らしい相性を見せます。
⑤ 総括
アマローネの重厚な魂を、ヴァルポリチェッラの軽快な精神で包み込んだ、イタリア・ヴェネト州が誇るリパッソ・ワインの至宝です。

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